第1章 比較
第6節 福井晴敏
第1項 福井晴敏の来歴

福井晴敏は1998年『Twelve Y. O.』で第44回江戸乱歩賞を受賞し、小説家としてデビュー。

2000年『亡国のイージス』で日本推理作家協会賞日本冒険小説協会大賞大藪春彦賞の三賞を受賞。直木賞候補にも挙がった。

2003年『終戦のローレライ』で吉川英治文学新人賞日本冒険小説協会大賞を受賞。


終戦のローレライ(1)

2005年には『亡国のイージス』、『終戦のローレライ』、『戦国自衛隊1549』の3作品が劇場版映画として公開された。

2007年『6ステイン』(短篇集)は、二度目の直木賞候補になった。


6ステイン

福井は強烈なガンダムフリークで、本人曰くガンダムと言うよりも富野ウォッチャーらしいが、デビュー作『Twelve Y. O.』をガンダムの生みの親、富野由悠季氏に献本したことがきっかけで『ターンエーガンダム』の小説化を依頼されを執筆(後に『月に繭 地には果実』に改題)、結婚の仲人をしてもらったほどだという。


月に繭 地には果実〈上〉

2007年~2009年の小説連載を終えて、2010年『機動戦士ガンダムUC』がOVA発売された。小説は全10巻完結、OVAは全7巻中6巻が発表されている。

第2項 福井晴敏の作風

ストーリー、キャラクター、セリフ、、、『ターンエーガンダム』、『機動戦士ガンダムUC』以外の福井作品にもガンダムの影響が読みとれる。シャア・アズナブルを思わせるキャラクターや、ジオン公国にそっくりな敵、あのシーンのあのセリフ。。。

福井作品は、一見で分かるその強烈なガンダム臭によってカモフラージュされているが、実は主にガンダム以外の様々な作品を材源として使用しており、その源流をたどるのが実に面白い。

第3項 『Twelve Y. O.』

Twelve Y. O.』の材源
◎『新世紀エヴァンゲリオン』(TV+旧劇場版)
△『ザ・ロック』(映画)
△『機動警察パトレイバー2』(映画)
△『新宿鮫』シリーズ(小説)

Twelve Y. O.』は福井のデビュー作。第44回江戸川乱歩賞を受賞した。


Twelve Y.O.

大筋と主要キャラクター設定は『新世紀エヴァンゲリオン』を材源としている。テロリスト「12(トゥエルブ)」は「碇ゲンドウ」、兵器「ウルマ」は「綾波レイ」がモデル。「葛城ミサト」と「赤木リツコ」は統合されて「夏生由利」になっている。


新世紀エヴァンゲリオン TV版 DVD-BOX

碇シンジに該当する登場人物を据えなかったところがポイントで、ストーリーはスムーズにスイスイと進むが、その分ドラマが薄くなった。

碇ゲンドウは、妻ユイとの再会を求め、ゼーレの人類補完計画を乗っ取り、サードインパクトを引き起こす。

トゥエルブは、父との再会を求め、日米政府の謀略「キメラ」のシナリオを書き換えて、沖縄県辺野古弾薬庫に大爆発を引き起こす。

大爆発を引き起こす二液混合爆薬「テルミッド・プラス」は、『ザ・ロック』の「テルミッド・プラズマ」がモデル。

「ウルマ」、「キメラ」、「アポトーシスⅡ」のルーツは『機動警察パトレイバー2』にある。

「BB文書」はネーミングとしては『新世紀エヴァンゲリオン』の「死海文書」を連想させるが、その実質的な役割は『新宿鮫』シリーズの「宮本の遺書」に相当する。


新宿鮫 著:大沢在昌

ちなみに、『機動戦士ガンダムUC』に登場する強化人間マリーダ・クルスの元のコードネーム「プル・トゥエルブ」はプルシリーズの12番目という意味だが、本作『Twelve Y. O.』の「トゥエルブ」に由来する。

第4項 『亡国のイージス』

亡国のイージス』の材源
◎『ザ・ロック』(映画)
○『レディ・ジョーカー』(小説)
△『機動警察パトレイバー2』(映画)

デビュー作『Twelve Y. O.』の続編で、映画化もされている。前作の辺野古弾薬庫の大爆発は「辺野古ディストラクション」と呼ばれている。


亡国のイージス(上)

前作『Twelve Y. O.』では小道具として二液混合爆薬テルミッド・プラズマだけが材源として使われていた『ザ・ロック』の、今度はそのストーリーラインが、忠実に取り込まれている。


ザ・ロック 特別版 [DVD]

唯一、大きく異なる部分が脅迫の要求内容で、『ザ・ロック』が「現金」であるところを、『亡国のイージス』では「日米政府謀略の公表」に改変されている。

この謀略には、『Twelve Y. O.』で発生した「辺野古ディストラクション」の真相が含まれる他、宮津艦長の個人的な動機が含まれるのだが、その動機の材源に『レディ・ジョーカー』が使われている。


レディ・ジョーカー〈上〉  著:高村薫

ちなみに、イージス艦いそかぜの乗務員で魚雷に押し潰されて死亡した菊政二等海士の子孫「キクマサ」が『機動戦士ガンダムUC』ではネェル・アーガマに乗艦し、やはりミサイルに押し潰されて死亡している。

以下、『ザ・ロック』と比較し、主な類似点を列挙する。

① 毒ガスで政府を脅迫
ザ・ロック
現役海兵隊将校ハメル准将が、部下及び傭兵と共に、米軍が所有する毒ガスVXを強奪、アルカトラズ島元刑務所を占拠、VXガスを搭載したミサイルの照準をサンフランシスコに合わせて政府を脅迫する。
亡国のイージス
現役自衛隊幹部宮津二佐が、部下及び北朝鮮の特殊工作部員と共に、在日米軍が所有する毒ガスGUSOHを強奪、イージス艦いそがせを占拠、GUSOHを搭載したミサイルの照準を東京に合わせて政府を脅迫する。

共に現役の海兵隊将校と自衛隊幹部が反乱を起こし、近海から毒ガスを搭載したミサイルの照準を都市に合わせて政府を脅迫する。

ザ・ロック』では物語開始から間もなく政府脅迫に至るのに対し、『亡国のイージス』ではちょうど真ん中、上下二巻の上巻最終ページ。そこに至るまでの練りこまれた経緯、人物描写の深さとボリュームが、福井作品の醍醐味のひとつ。

ザ・ロック』のVXガスが実在するのに対し、『亡国のイージス』には架空の毒ガスGUSOHが登場する。日本においては、VXガスやサリンはリアルで生々しすぎるからであろうか。

② 要求内容
ザ・ロック
要求内容は、過去の作戦において戦死した海兵隊特殊偵察部隊隊員の遺族への補償金として1億ドル。
亡国のイージス
要求内容は、アメリカ政府と日本政府の謀略を公表すること。

一見して、『ザ・ロック』は現金を要求、『亡国のイージス』は謝罪の要求であって現金ではないところに大きな差があるようだが、遺族に保証金を分配して傭兵に報酬を支払えば、ハメルの手元にはいくらも残らないことからすれば、いずれもカネ目的ではない点は同じ。宮津が、単なる傭兵ではなく北朝鮮の工作員と組んでいることで、ストーリーとドラマを複雑化させている。

③ 特殊焼夷弾テルミッド・プラズマ
ザ・ロック
毒ガスが使用された場合の対抗手段は、特殊焼夷弾テルミッド・プラズマ。3000℃の爆発で毒ガスを焼き尽くす。
亡国のイージス
毒ガスが使用された場合の対抗手段は、特殊焼夷弾テルミッド・プラス。6000℃の爆発で毒ガスを焼き尽くす。

VXガスを架空の毒ガスGUSOHへ置き換えた配慮とは裏腹に、この酷似は一体何なのか?

爆発熱3000℃を倍の6000℃に上げて、GUSOHの厄介さをアピールしているが、名称は見ての通り大差ない。『ザ・ロック』を材源としていることを隠すつもりがないどころか、前提としているかのようではないか。

ちなみに、『Op.ローズダスト』でテルミッド・プラスは改良強化され、《テルミッド・プラス・エクストラ》として登場する。さらには、GUSOHとテルミッド・プラスは次作『∀ガンダム』にも登場し、福井作品世界とガンダム世界が地続きであることをほのめかしている。

④ 海底づたいの奇襲作戦
ザ・ロック
海兵隊の特殊部隊SEALが海底づたいにアルカトラズに忍び寄る奇襲作戦は、部隊壊滅するも2名の工作員の送り込みに成功。
亡国のイージス
防衛庁の特殊要撃部隊920SOFが海底づたいにいそかぜに忍び寄る奇襲作戦は、部隊壊滅の大失敗。

ザ・ロック』では奇襲部隊が壊滅するも2名の工作員を送り込むことに成功したことで、ストーリー上不可欠な作戦であったのに対し、『亡国のイージス』では何の成果もない作戦であった。

ただ、登場人物一人一人の心はこれをきかっけに変化し、それぞれが行動に結びつき、その先のストーリーを動かしていくことになる。つまり、材源では縦糸であったものを抜き出し、横糸として組み込むことで、ストーリーの動機として必要なドラマに仕上げている。

ついでに言うと《920》という数字は、福井の未発表2作品『敗者達の黙示録』、『壊点–ポイント・ブレイク』の主人公《結城圭一》のIDナンバーに由来する。『亡国のイージス』の主人公《如月行》のIDナンバー《729》と共に福井作品世界では伝説的存在。『Op.ローズダスト』には復活した920SOF及び新設された729SOFとして登場し、『機動戦士ガンダムUC』には地球連邦軍の特殊部隊ECOAS920とECOAS729として登場する。


HOW TO BUILD福井晴敏

⑤ 特殊工作員
ザ・ロック
イギリスSASの特殊工作員パトリック・メイスン(ショーン・コネリー)と、FBIの化学兵器専門捜査官スタンリー・グッドスピード(ニコラス・ケイジ)が、テロリスト排除の行動を起こす。
亡国のイージス
もともといそかぜ艦内に潜入していたダイスの特殊工作員如月行と、ミサイル担当の先任伍長仙石が、テロリスト排除の行動を起こす。

ザ・ロック』が《高齢》の特殊工作員と《中年》の専門家であったものを、《青年》の特殊工作員と《中年》の専門家へと改変していて、その組合せは福井作品では定番になっている(『川の深さは』、『Twelve Y. O.』、『Op.ローズダスト』)。

⑥ 空爆作戦
ザ・ロック
一方、政府はテルミッド・プラズマによる空爆作戦を開始。
亡国のイージス
一方、政府はテルミッド・プラスによる空爆作戦を開始。

ザ・ロック』では、まだテスト段階で実戦配備されていないテルミッド・プラズマを36時間以内にF-16戦闘機へ搭載する。期限までに間に合うかどうか?という切迫したドラマはなく、空いた時間に奇襲作戦を仕掛けるための状況設定でしかない。

亡国のイージス』のテルミッド・プラスは、前作『Twelve Y. O.』で既に使用されている。辺野古基地に巨大クレーターを作って、性能・効果は実証済みだ。

むしろ、自衛隊戦闘機が味方のイージス艦を爆撃するというありえない状況における、パイロットの心理的葛藤を克明に描写する。

自衛隊の同士討ちという同様の状況を描いた映画『機動警察パトレイバー2』から、戦闘機のパイロットと管制官との無線交信の会話をほぼそっくり引用している。が、空爆作戦の中で僚機を撃墜されるなどドラマが付け加えられ、パイロットの心理描写の深さは、『機動警察パトレイバー2』や『ザ・ロック』の比ではない。


機動警察パトレイバー2 the Movie [DVD]

⑦ 最後のテロリストがポールに串刺し
ザ・ロック
テロリストの最後の一人がポールに串刺しとなって死亡。
亡国のイージス
テロリストの最後の一人がポールに串刺しとなって死亡。

残った最後の一人を、どういたぶって始末するかという場面。ポールに串刺しとなる切っ掛けが、『ザ・ロック』では少々笑える演出だったものを、『亡国のイージス』では手に汗握る戦闘シーンに改変している。

北朝鮮の工作員の首魁が惨めな最期を迎え、その醜態を晒しつつ、なおも終わらない状況を見つめ続ける。

⑧ 空爆回避
ザ・ロック
グッドスピードは発煙筒でテロリスト全滅を伝えたが、空爆は完全には回避されず、一部が投下されて爆発した。
亡国のイージス
仙石は手旗信号でテロリスト全滅を伝え、空爆は回避されたが……。

ザ・ロック』では、せっかく発煙筒を焚いて作戦成功を伝えたのに、空爆は完全には回避されなかった。爆発がないと話が締まらないということか?

亡国のイージス』では、なんの通信手段も持たず、深手を負っているため仰臥したまま起き上がれない状態で、手旗信号を振る。誰がどうやって見るというのか? と思いきや、それまので伏線が大いに効いて大成功、空爆は回避される。それでもやはり、爆発がないと話が締まらないということか、コントロールを失った艦が、陸地に向かって暴走を続ける……。

⑨ 墓参り
ザ・ロック
プロローグで、ハメル准将が亡妻の墓参り
亡国のイージス
エピローグで、宮津艦長の妻が宮津艦長の墓参り

ザ・ロック』のハメル准将は、妻が亡くなったことで踏ん切りがつき、テロ計画を実行に移す。妻を狂気に巻き込みたくない、あるいはその存在に計画の足を引っ張られたくない、そういう心配がなくなったことが墓参りによって表現されている。ただ、それは状況であってドラマではない。

亡国のイージス』では、宮津艦長の妻は存命のままストーリーは展開するが、最後の最後まで出番はない。エピローグには、ストーリーとは無縁のドラマが用意されている。

第5項 『Op.ローズダスト』

③ 『Op.ローズダスト』
◎『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(映画)
◎『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙』(映画)
△『機動警察パトレイバー2』(映画)
△『レディ・ジョーカー』(小説)

本作は、「ガンダム」二作を材源のメインに据えて、アムロ・レイとシャア・アズナブルの因縁の対決に真っ向から取り組んでいる。


Op.ローズダスト(上)

一年戦争でララア・スンを失ったシャア・アズナブルは、何を目的に地球寒冷化作戦を企て、その裏で何故にサイコフレームの製造法を自らリークしたのか?

逆襲のシャア』は初見当時、分かりづらい作品だった。シャアやアムロの言動は、頭ではなんとなく理解できても共感はできない。


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アクシズを地球への落下軌道から逸らした虹色の光はご都合主義のデウス・エクス・マキナのようでいて、シャアやアムロが抱える問題の何をも解決していない上に、二人を消滅させてしまった。観ていて、取り残されたような放り出されたような、不快な違和感を覚えたものだ。

アクシズが地球に落ちなかったのはどういう理屈か? という作品世界内部の科学的論理は、後々の解説本や『機動戦士ガンダムUC』の中で付与されたり(放棄されたり)するが、それは問題の本質とはほど遠く、違和感を拭うものではない。

二人は何をどう考え、《一年戦争》から《シャアの反乱》までの時を過ごし、何を求めてその時を迎えたのか? 地球圏に漂うララァの魂は何を望んでいるのか?

年を経て次第に彼らの考えや気持ちが分かるようになると、より一層、違和感は深まった。彼らは、そのストーリーで、その結末で、果たして満足しているのだろうか? アニメのキャラクターの人生の幸福感を心配するのも滑稽な話だが、虚構であるからこそ理想を描いて貰いたい。

理解が深まるにつれ、不満が増していくと感じるのは、私の誤解であろうか? 理解不足であろうか?

Op.ローズダスト』は、私のその疑問と苛立ちにひとつの回答を与えてくれた。

本作は、『逆襲のシャア』を材源とし、一功、朋希、三佳の三人が、シャア、アムロ、ララァの関係を再現している。そして、アクシズは地球に落ちる。さらに舞台はアクシズからア・バオア・クーに移り、カツ、レツ、キッカが現れて……。


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詳細はここでは割愛するが、『逆襲のシャア』の消化不良を解消し、『機動戦士ガンダムUC』へと繋ぐために必要な一作だ。

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